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neutron tokyo 1F main gallery + 2F salon Exhibition

入谷 葉子 展 「お山の家」
2009年5月13日(水)~5月31日(日) [ 会期終了 ]

Comment, gallery neutron ISHIBASHI Keigo

ギャラリーニュートロン代表 石橋 圭吾

  それは本来、何の変哲も無い一軒の「家」の光景である。入谷葉子の描く「家」は、彼女にとって幼少の頃を過ごした想い出深いそれであるだけでなく、その後 引っ越しなどを経て少しづつ精神的に成長し、やがて大人になって自立した今もなお、心の中にはっきりと存在する自分の(そして家族の)象徴的な「家」であ り(親戚の間では「お山の家」と呼ばれていたそうだ)、忘れ得ぬホーム・スイート・ホームなのである。しかし、他人にはその感情全てを共有することは出来 ない。それぞれに入谷の思うほどの「家」の存在はあったとしても、その色や形、匂いや感触は違うのだから。だとすると、入谷が必死に色鉛筆で塗り、輪郭を 描いたこれらの絵から、私達が普遍性を感じ、共感すべきものとは何なのか。

  ここで「家」というモチーフに付いて回るのが「郷愁」や「故郷」といったセンチメンタルな要素であることは否定出来ないが、ではそれらを入谷の色使いや 大胆な構図から、直接的に受け取ることもまた難しい。彼女はシルクスクリーンを用いて(当時から色鉛筆も駆使して驚愕の背景パターンを描いた)制作をして いた時代から、近作の色鉛筆を主とした制作に至るまで、実にコントラストの激しい色調で常に画面の中に不安定さと違和感を生じさせてきた。色の印象は強い のだが使われる色数も多いため、一色の印象に鑑賞者がとらわれることなく、むしろそのサイケデリックとも言える世界観に圧倒されるか、または酔う(酔いし れるのではなく、本当に目が回る様に酔うことを指す)。シルクスクリーンと色鉛筆による質感の違いによって空間内の次元の差異を感じることの出来た従来の シリーズから、完全に色鉛筆に支配された新作に至り、私達は入谷の絵に対する距離や本当のモチーフたる「家族」という存在に次第に近づいてきた。しかし、 実はこの平坦に見えるグラフィックの中にも、やはりぬぐい去れない違和感と奇妙さが同居している。一般的な門構えの玄関の光景には、これでもかと言うくら いに色とりどりの色彩が施されているし、もちろんそれらは実際の色とは大部分が異なる。一部は忠実に再現され、多くは全く作者の意図によって変えられてい る。なぜそのような操作をする必要があるか。…無論、色鉛筆の様々な色を使いたいからでは無い。実はこれらの光景は写真を含む記録と、作者の中にある記憶 とで合成されたものであり、それは私達全てが心の中に持つ、今となっては戻れない時代のふるさとであり、人によっては現在もなお続いて共有している「家」 という空間にまつわる印象である。だからここで、具体的にどの部分が忠実であるかはあまり重要ではない。「家」というものが建てられてから数世代に渡って 同じ空間を共有してきた事実を、場所と言う一つの点から捉え、時間という縦軸を一つの画面の中に凝縮することにより、画面の中の出来事には「時差」が含ま れていることになる。それこそ作家の意図であり、私達が無意識に感じるであろう些細な違和感にも繋がる要因である。もしかしたら桜の咲き誇る季節に、車は その下に無かったかも知れない。あるいは植木の手入れが行き届いていた頃、玄関のドアノブは無く、引き戸だったかも知れない。全ては可能性として捨てきれ ず、しかしフィクションでも無い。想い出とは時に自分勝手にも再編集されるものだが、「家」という物質の記録は写真や映像で確かに残る。そこでどんな笑い 声が存在したか、時にそんな騒ぎが繰り広げられたか、「家」は全てを記憶しているのだろうか。そうであって欲しいとも思えるし、そうであるなら私達はそん な家族の共有する記憶の場を離れる事に、もっと悲しんで良いのではないだろうか。

  そう思う時には既に「家」は無く、記憶の中にのみ存在する。だからこそ美しく思い出され、また人は新たな「家」を探そうとするのだろうか。東京に終の住 処は想像しにくいが、それでも人々は住んでいる。人が住む限りそこは「家」であり、かけがえのない場所なのだ。

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