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neutron tokyo 3F mini gallery Exhibition

西川 茂 展 「inviolable」
2010年9月15日(水)~10月3日(日) [ 会期終了 ]

Comment, gallery neutron ISHIBASHI Keigo

ギャラリーニュートロン代表 石橋 圭吾

    「音像」という言葉があるが、私達の耳に届く音(あるいは人間の耳では聴こえぬ音も)は全て固有の波長を持ち、それはコンピュータの解析によって視覚的 に認識することが出来る。聴覚に限らず、味覚や嗅覚、触覚も電気信号として分析することによって、それぞれの「像」を持つことを確認できるであろう。そし てそれらを電気信号で再現しようとした場合、私達の感覚器官は人工的な刺激により、まるで実際の体験のごとく感受するという。いずれ世の中は脳に直接プラ グを差し込み、バーチャルの体験を知ることになるのだろうか。だが翻って私達の視覚に戻ると、実は電気信号だけでは説明も理解もできない数多の不可解な現 象が、絵画というイリュージョン(幻影、錯覚)には潜んでいることを忘れてはならない。それはキャンバスに絵具を付着させた物質という質感だけでも、網膜 を通じて脳に届けられる視覚的信号(見えているものとしての)だけでも語り尽くせない、絵画だけが持つ「もう一つの景色」に依るものであると、認めざるを 得ないだろう。

  そう、絵画は体験であると同時に記憶であり、単一の事象でありながら複数の解釈の余地を保有する、複雑な存在である。その機能を作家が自覚すればするほ ど、事態は一層複雑になる。私達鑑賞者は目の前に描かれた地平を見て、ほぼ疑いも無く奥行きを想像し、世界の広がりを連想する。その空中にヘリコプターを 見つければ、その実際のスケールを想起し、そこから逆算的に画面の中の世界を計測する。だがもしそこに、ヘリコプターと対称の位置に、それと同じ大きさで 「トンボ」らしきものを見つけたとき・・・。世界は一気に変貌を遂げることになる。

  西川茂の代名詞となりつつある「ヘリとトンボ」のシリーズは、ほぼ全ての画面にヘリコプターとトンボが小さく描かれており、それを知ってか知らずか、花 畑や雲の広がる光景は圧倒的な広がりを見せ、地平線や水平線は遥か彼方にこの世の果てを示すのみである。絶望的なまでに美しく、寂しい光景の広がりは、そ れ故に私達の記憶の中から同種の経験を探し出させようと掻き乱すのだが、おそらくは見つからない。しかし未知の世界かと問われれば、そう確信めいて言う事 も出来ない。土地や時間を特定しない世界は静かに広がっているのみで、私達を誘っているわけでも、拒絶しているわけでもない。ただそこに在る。それだけの 事実(画面の上での)によって私達は動揺し、所在なく感じ、しばし言葉を奪われる。その沈黙を切り裂くのはおそらく、頭上を舞うヘリコプターの爆音と、同 時にささやかに羽ばたくトンボの羽音である。そのいずれかに気を取られれば必然的にもう片方を認識しづらい関係にありながら、両者は絶妙な均衡を保ってそ の瞬間を維持している。いや、その二つだけでなく、景色も含めた三つの要素の関係は、究極のトライアングルの上に成立し、全ての気配や緊張を一瞬に閉じ込 めたかのような絶対的な図式を構成している。

  作家は自己の圧倒的体験を基に絵を描くが、私達がその作品から体験するのは、もはや作家の経験したそれとは別のものであり、絵画というイリュージョンの 産物である。にもかかわらず、おそらく本質的に西川茂の意図は鑑賞者に共有されるだろう。なぜなら優れた絵画は現実に起こる事象と同等の驚きや感情の動き を人間に与え、視覚的な体験としてだけでなく、世界を知るという創造的な出来事をも可能にするだろうから。西川茂の提示する絵画は物質としての存在を超え て、起こり得る/起こったはずの経験を私達の脳に訴えかけている。

  今個展は本年4月にneutron kyotoで先に発表した作品を中心に、来年の春に控える「アートフェア東京」出展及び大規模個展へと続く、ブリッジのような位置づけにある展覧会であ る。しかしそこには既に新たな試みとなる「terrestrial」と題されたシリーズが含まれており、見どころは多い。彼の描くモチーフや構図、景色の バリエーションは他の作家に比べて決して多くは無いが、その世界観は既に確立されていると言って良い。彼はひたすらに、自身をも再び揺るがす神の領域を、 現出させようと企んでいる。

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