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Gallery Schedule
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neutron tokyo 1F main gallery + 2F salon Exhibition

「SOMEDAY」 益村千鶴 (平面)
2011年11月23日(水・祝)~12月11日(日) [ 会期終了 ]

Comment, gallery neutron ISHIBASHI Keigo

ギャラリーニュートロン代表 石橋 圭吾

 あの日以来、全ての物事の見方・見え方が変わってしまった。無論あの日とは「3.11」の事である。地震と津波と放射能によって徹底的に覆され、掘り返されたのは私達の住む日本の国の地面だけでなく、私達が疑うことすらしてこなかった様々な社会的欺瞞や奢り・慢心と言ったものを根こそぎ露呈させ、今私達が見ているのは強引に皮膚を剥かれ赤くただれた世界の表層である。

 政治、経済、それらに依存する社会的生活全てにおいて、従来信じられてきたものの価値は根底から見直され、その本質を問われている。そして時代の映し鏡であり、同時に時代の意識に一石を投じる役目を果たすべき美術もまた、大きな衝撃の余波を受けている。現代美術と市場経済の関わりが最重要の議題とされ続けてきた時代に、楔(くさび)が打たれたのだ。地面を当たり前のように覆い尽くすアスファルトやコンクリートの下には地球本来の地表が存在するように、私達の時代に打たれた楔からやがて水が流れ込む先には私達が生きている世界の本当の地表が存在し、呼吸している。私達の住む地球、世界もまた、私達人間と同じく生身の存在であり、傷口を広げ、再生し、歳を取り、やがて死滅する生命体なのである。

 まさに今この時、益村千鶴の描く絵に対する見方は大きく変化しつつある。それはおそらく作品が表現するものを正しく見てもらえるようになった、という意味であり、作家に対する評価もまた急激に上がっている。それまでの平穏な生活の中では見過ごされがちだった繊細な肌理、そこに生まれた亀裂や何かの痕跡。それらの皮膚感覚的な事象は、今となっては剥き出しの地表さながらに痛烈なメッセージを宿して見える。他方、ここ数年の絵画における「写実ブーム」の高まりにより、やはりこの作家の本来の描画力と視点は見過ごせないものとして取り上げられる。当の作家本人が描いてきたものは必ずしも写実性だけに訴えた世界では無いのだが、本格絵画に対する時代の要請に応えられる以上の力量があるのだから、ブームはむしろ追い風となるだろう。益村千鶴が描くリアリティーは「写実」の意味する現実味と、もう一方では全くのファンタジーに起因する独特の浮遊感によって支えられる。その両者の距離感次第では現実の映し鏡としての機能を果たし、あるいは全くの虚構に偏る事も可能である。だがいずれの方向に針の振り子が振れようとも、触覚あるいは皮膚感覚に訴えかける点で、技法やスタイルを超えた切実なる存在感を発揮するのである。

 今回は昨年から今年にかけて制作された油画の新作の発表に加え、東京では初のお披露目となる写真技法の作品シリーズ「CARPE DIEM.」も展示される。従来、2007年当時に制作・発表されたものに加え、新たに2011 年の新作も投入される。それぞれの風合いや表現のスタイルが異なり、しかし根底では写真技法だからこそ実現可能な「作品」として成立していることは共通している。おそらくこれは従来の益村千鶴に対する見方をまた大きく広げることに繋がるだろう。

 そもそも益村千鶴の絵画はモチーフに人間の顔や躯体、手などの末端が描かれる事が多く、植物を描く際にも根本では人間のパーツに対しての注視と変わらぬ視点が注がれていた。つまり絵画面には必ず身体的なモチーフと身体性感覚が描かれ、絵画そのものの物質性とも重なり合って「肉体的」存在として制作されるのに対し、写真技法のシリーズはまさに作家の「視点」そのものを切り取った連作である。その額装や印画紙の風合いにまで注力するあたりは作家ならではの演出だが、本質的に写真とは実存に対しての「像」であり、実体を持たない光の痕跡である。そういう意味では概念的な存在とも言える。絵画の原画が一点しか世の中に存在しないのに対し、写真はエディションを設定できるのも、この表れと言えよう。つまり今回は益村千鶴の身体的表現と、視点=視座を切り抜いた概念的表現の二通りの作品を楽しんで頂けるのだ。

 そして最も出色の新作「Flow line」では、初めて自分以外のモデルを用いて描いている。その背景にはうっすらと広がる灰色の景色。手前には黒く塗られて距離感すら掴めない光景。それらの意味するものは、今まで以上の何かを秘めている。益村千鶴が本当に必要とされる時代に投げかけるものは、次なる時代への布石となるだろう。

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Art Works1
・2011年 個展 (東京)

Art Works2
・2009年 個展 (東京)


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