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neutron tokyo 1F main gallery + 2F salon Exhibition

「 あなたとわたしのこの世界 」 寺島みどり (平面)
2012年4月4日 (水) ~ 22日 (日) [ 会期中 4月9日, 16日 月曜閉廊 ]

Statement of Work

手探りの風景

 3年前の夏、初めての富士山登山を試みた時、五合目近くにある「奥庭」と呼ばれる所の山荘を拠点とした。登山客でにぎわう富士スカイラインの終点、吉田口でバスを降り、御中道(おちゆうどう)という山道を2 時間ほどかけて下ったところに奥庭はあった。

 その日は登山に備えて早めに就寝し、翌朝3 時頃出発。ゴツゴツとした岩肌の急斜面を休み休み這いつくばるようにして登ることおよそ9時間、富士山頂にたどり着いた。頂上はこれ以上無い晴天で、くらくらするほどの眩しさの中にあった。お鉢巡りをし、膝の痛みにひいひい言いながら下りをのろのろと進み、奥庭に戻って来た。

 少し休憩を取った後、奥庭を散歩した。景色の良さから「天狗の遊ぶ庭」と言われた由来があり、自然公園にも指定されている。木々は青々と茂っているが背は低く、幹や枝はくねくねとひん曲がっている。冬の厳しい環境に耐え、そういう姿になっているらしい。樹齢何百年という老木も驚くほど小さい。地面はふかふかとした土ではなく、ほとんど砂礫で覆われていて、一瞬、冬の厳しく荒涼とした世界が見えたような気がした。しかし、そこでは今、小さな湧き水を求めて集まる鳥の鳴き声が聞こえ、木陰ではそこらでコケモモが赤い実をたわわに実らせているのだ。透明な日差しに輝く黄緑色や赤みがかった小さな葉っぱ。銀色に光る木の肌。何もかもが生き生きとし、美しかった。見上げると富士山の姿が間近に迫っている。そして下を見ると雲の海。まさに別世界。この不思議な場所の記憶は私の中に強く残った。

 それから私はあの時の体験を反復するように「奥庭」というタイトルの作品を続けて作った。そして次第に「奥庭」という具体的な場所から、自分の中にある「楽園」という概念が強くなり、それを絵にしたいと考えるようになった。明るい世界を描きたかったのだ。

  作品発表の機会も得、制作に本腰を入れようと大きなスタジオも借りたが、入室したその日、東日本を大きく揺るがす地震が起きた。それから次々と信じられないことが続き、その中で私は「仕事を続けなければ」と思った。

 作品発表も全て終え、身の回りがようやく落ち着いたのは夏になってからだった。はたと冷静になれば、何も描けない自分がいた。その時には明るい絵を描きたいという思いは消えていた。構えない気持ちになろうと紙を選び画面に向かっても、いつまでも終わりが見えない。画面に向かいながら「あれでもない、これでもない」と否定を繰り返すばかりであった。

 そんな時、被災地で取り壊し予定の家屋に花の絵を描く活動が行われていることを知った。私は自分の絵を描く能力が活かせればという気持ちでその活動に参加した。しかし、どちらかと言えばお世話になりっぱなしで4日間の活動を終えた。

 被災地から戻ってしばらくすると、自分が絵を描けるという喜びが心の中に残っていた。環境に阻害されているわけでもなく、しかも私は絵が大好きだ。絵具を触っているだけで、画面に向かっていろいろしているだけで楽しんでいる自分がいる。最初はそこから始めればいいだろう。何を描くかは一つずつ確かめて行こう。それはもどかしく焦ることもあるだろうが、いいじゃないか。急いでしまわず納得いくようにまた始めよう。そういう気持ちが芽生えたのだ。

 ただ実際始めて見ると、やはり自分が何処へ向かいたいのかが解らない状態は苦しかった。だから絵を描くことから少し離れて支持体の研究をすることにした。支持体は名前の通り、絵が描かれている表面を支える部分だ。以前から気になっていたこの部分の構造と役割を、断片的ではなく一度まとめて研究しようとした。膠をふやかし、湯煎にかけて溶かしたものを布に塗った。分量を正確に量り、気温や湿度も記録した。布はその目を鉛筆でなぞり、ゆがみを確認し、生き物のように伸び縮みする具合を観察した。石膏と膠と乾性油、それに白色顔料を調合し混ぜながら堅さや塗りやすさのバランスも確かめた。実際には支持体のごく初歩的なところを知る部分で一区切りをつけたのだが、この作業は頭の整理にもとても役に立ったと思う。

 支持体の研究をメインにしていたのだが、作業前にはオイルパステルで何でもいいからとにかく描くことにしていた。オイルパステルは初めて使う画材だったので、新鮮な気持ちで実験を楽しみながら枚数を重ねたいという考えがあった。描いていくうちに一つのイメージにまとまるようになってきた。それは四角い画面の一番奥に二つの山があり、その手前に丸い池や水たまりのようなものがあり、一番手前の木々がその奥のイメージを隠すように林立しているというものだった。何故そのイメージがしっくり来たのかというと、構図的に奥から手前へという空間が作りやすいということ、四角い画面に三角と丸の図形と線的要素が入れられるということ、そして、山や空、水、木々、といった自分が惹かれるモチーフを一つの画面に入れられるということ、などが挙げられると思う。しかし、これは私が求めている表現のための舞台装置のようなものにすぎない。これらの要素でどのような世界を描くのかが見えて来たのは、「儚い夢」というF100号3連の作品を解らないままに描き始めてからであった。

 それは白いキャンバスから描き始めたものではなく、一年前に全く別の作品を途中で放り出していたものを3つ合わせて一つの画面にし、その上から新たに描き始めたもので、最初はかなり派手な色合いのものであった。作業はまずその派手な色、一年前「明るい絵が描きたい」と乗せていた色を、グレーや褐色で抑えていくところから始まった。しかし全てが抑えた色にはならず、強い色味も画面に残った。その結果、仕上がったものは昼なのか夜なのか、春なのか冬なのか、決まりきらないものになった。混沌とした世界ができ上がったように見えた。

 この作品を仕上げた時、できればもっと混沌を深めていきたいと思った。私の中で作り上げた世界の姿を捉える「法則」の様なものを剥ぎ取り、混沌を混沌として受け入れ、それを表現できるようになりたい。その方法はまだ手探りの状態ではあるが、一つの同じイメージから発展させる形で、絵具を垂らしたりする偶然を活かした技法も含め、いろいろ実験しながら作業を積み重ねている。

 私は世界を美しいと思う。今私が想像できるものよりきっと美しい。

寺島みどり


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