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先に稲富の関心として、〈存在を立ち上げること〉と仮定した所以はここにある。稲富の作品は、ほかに関係することで存在するのではなく、それ自身としてあ るようなもの、なのである。もちろん、「そんなものはありえない。たとえ無用に見えるものでもすべてはほかのものと関係することで存在しているのだ。なに よりそこには作家の作為があるではないか!」という声はあって当然であろう。だがここではあえて、作品をそういうものとしては位置づけない。作家からすら 独立したものとして、自然なものとして捉える。矛盾であろうともそう了解することで初めて、稲富の作品の在処を認めることができると私は思う。
改めて今回の作品を見てみよう。展覧会全体としては先に書いたように整合性の取れたものだったが、一つ一つの作品について見れば、必ずしもすべてがその 質を備えていたわけではない。点数が多いため大まかな言い方になってしまうが、比較的サイズの小さい作品が、大きな作品のミニチュアのようになっていたこ とが気にかかる。小品の多くがいまだ自身の存在を宙づりにされているかのごとく行き場のない様相を見せていたことが、私には幾分残念だった。しかしそれで も、私は先の前提に帰り、そしてこう期待するだろう。棒状の作品はそのまま高く伸びゆき天を穿ち、球状の作品は天から降る空の欠片を包み込む。私は初個展 である稲富の作品に、その片鱗を見る思いがした。