2009年6月24日(水)~7月12日(日) 1F main gallery + 2F salon
文 / 小金 沢智 (neutron tokyo) 写真 / 表 恒匡
小倉正志は〈都市〉を描き続けている作家である。だが描かれる都市の、高層ビルはまるでそれ自体生命体であるかのように地上から隆起し画面内を動き回り、 一方で人間は星形の記号と化し、上空から降り注ぐ。それらは一目で都市と認知できるもの、すなわち私たちが一般的に思い浮かべるようなビルの林立する都市 風景ではなく、小倉の都市観が大きく反映されたものにほかならない。小倉の90年代から現在に至るまでの作品、大作から小品まで約30点を展示した石橋圭 吾によるキュレーションは、作風の変遷を見せつつも(それは作風の、というよりも小倉から見た都市の風景の変化という方が正しいかもしれないが)、小倉が 一貫したスタイルを持っていることも同時に示した。
《天と地の交信》(アクリル・マーカー・鉛筆、F50、1998年)と《クラッシュ》(アクリル・マーカー・鉛筆、F50、1999年)はともに90年 代末の作品だが、それらと新作の《ドリーミング》(アクリル・マーカー・鉛筆F20、2009年)があまりに対照的であることは明らかだろう。先の二点は 荒々しいタッチと激しい色彩によって暴力的とも言えるイメージを喚起しているが、《ドリーミング》は星々の煌めきのような明るく、優しい雰囲気を纏ってい る。近年の作品がすべて《ドリーミング》のような作品であるわけではなく、同作にすべてを代表させるわけにはいかないのだが、しかしこの振幅には注目した い。
左作品 《クラッシュ》(アクリル・マーカー・鉛筆 / F50号 / 1999年)
中作品 《天と地の交信》(アクリル・マーカー・鉛筆 / F50号 / 1998年)
右作品 《ドリーミング》(アクリル・マーカー・鉛筆 / F20号 / 2009年)
さらに《予兆―未来の世界―》(アクリル・マーカー・鉛筆、F50、2009年)のような作品が加わることによって、小倉の絵画はより幅を広げる。鮮やか な赤が重ねられ深みを増した画面にはそこかしこに人間の記号が漂い、雷のような線が中心から四方へと散っていく。これまでのようなビルは描かれることな く、奥には山の稜線らしきものが幽かに見え、あたかも火山のような趣である。