2009年9月16日(水)~10月4日(日) 3F mini gallery
文 / 小金 沢智 (neutron tokyo) 写真 / 廣瀬 育子
三尾あづちの作品を見てまず驚くのは、その奔放できらびやかな画面構成だ。アクリル絵具、ボールペン、オイルクレヨン、ラメテープ、そしてお菓子のパッ ケージなど多様な画材を使用して構成される画面には、ヘビ、ガイコツ、クラゲ、イカなどの実在する生きものに加え「宇宙タコネコ」なるオリジナルキャラク ターが登場する一方、ほとんど読み取り難い言葉もまた綴られており混沌とした世界が描き出されている。作品はドローイングとジェッソの繰り返しからなり、 ボンドも使うことによってキラキラと光沢を帯びている。
《ようこそ!シンセカイ!》
(2009年 / 53.5×27.8cm / ミクストメディア)
三尾は、制作にあたって「何を描くか決めずに、その日の気分で描く」と言う。そう聞くといかにもそのような「自由さ」が作品にはあらわれているように見え るが、この「その日の気分で描く」ことから想像してしまう作品の「自由さ」は想像するほど誰にでも可能なものではなく、むしろ三尾の持つ一つの能力として 捉える方が適当だろう。自ら絵筆をとったことのある人なら誰でも、紙やキャンバスを前に逡巡したことがあるのではないか。画家でなくとも、たとえば学校や ワークショップなどで「自由に描いてください」と言われたときの一瞬の喜びとは対照的に、実際に描き出してみると何を描いていいかわからない自分に戸惑っ た経験のある人はいないか。三尾は「その日の気分で」何点かを同時制作することもある。時々の気分であっちを描いたり、こっちを描いたりする制作態度と、 そうして描かれる作品からは、自由気ままなアーティスト像を想像されるかもしれない。だが、必ずしもそうではない。描くという行為、あるいは制作するとい う行為は基本的に主体的なものであるがゆえに、食べることや寝ることと同様日常不可欠な行為として作家の身体にそれらが染み込んでいないかぎり、「その日 の気分で描く」ことなどできはしないのである。天性の才能も含まれるかもしれないが、何よりトレーニングが不可欠であることは言うまでもない。