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次に、物質としての「ひらがな」に注目してみよう。中村は上述のインスタレーションに加え磁器によるひらがなのフックを制作し、一階ショーケースには 「な」「か」「む」「ら」「め」「が」「ね」と縦書きで、二階正面の壁面には「い」「へ」「て」「ひ」と横に、そして天井に「と」を展示した。けれどもそ れらのひらがなは壁面との接合部分がまちまちであり、あるものは通常の逆さまに接着させられ、一見しただけではなんなのかわからないものもある。要するに ここではひらがなから意味性が剥ぎ取られ、ただそういうかたちをした物質へと転じている。
そのことによって実感させられるのは、そもそも漢字と比べると単体では意味性の希薄なひらがなの、かたちとしての美しさであり、面白さだ。磁器によるつ るっとした質感がその滑らかなかたちを強調していることも原因の一つだろう。二階には《豆腐と油揚げ》から、タイルを一つずつマット装した作品も三点展示 された。日常的に目にする印刷物等に印字された精緻なそれと違い、中村によって焼成されたひらがなは、同じ「と」でもそれぞれ状態が異なる。つまり、言葉 に個性がある。
これらの作品はコンセプチュアルに過ぎると思う方もいるかもしれない。しかし中村の作品は、なによりも私たち鑑賞者がその場に立ち / 歩き / 見る、すなわち体験することを前提としている。だからこれ以上の説明は無粋である。