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neutron tokyo 1F main gallery + 2F salon Exhibition

「 屹立する白 」 任田進一 (写真 / 映像)
2012年2月1日 (水) ~ 19日 (日) [ 会期中 2月6日, 13日 月曜閉廊 ]

Comment, gallery neutron ISHIBASHI Keigo

「屹立する白」 に寄せて

 かつて美術の分野でもてはやされた有名なモチーフに、「ミルククラウン」というものがあるのをご存知だろうか? 写真で見れば一目瞭然だが、平たい容器に浸されたミルクの上に一滴のミルクを落下させると、水面(ミルク面)がバシャッと跳ね上がり、その液体の瞬間的な形状が「王冠」のようであることから名付けられた現象である。今までに数多の写真に捉えられ、あるいはポップアートにも転用されてきたのでオリジナルの出自については不明だが、どうやら先に科学分野で研究されたらしく、美術の分野においてアイコンとなったのがいつ頃からかは分からない。しかし今に至るまで、ミルクと言えばクラウンと、相場は決まっていた。

 しかしここで、一滴のミルクがもたらす現象よりも遥かに雄々しく、あるいは禍々しいミルクアートが発表される。無論、作家はミルクアートなどと定義していないが。ミルクを使った瞬間的な造形を切り取る写真、あるいはその現象を動画に収める手法は決して新しい事では無いと先に前置きした上で、任田進一の試みる行為を探って行きたい。

 彼は写真を主な制作技法としているが、一般的なポートレートや風景写真といった切り口で提示するタイプの写真家ではない。どちらかと言えば思考が先に存在し、そこで浮かんだ疑問やアイデアを具現化するためにカメラを構え、時には撮影舞台を自ら演出し、訪れる事を期待される瞬間を待ち、シャッターを押す。そこには予め用意された(期待された)現象以外に、予想だにしない多くの奇跡的な現象が連続的に訪れ、レンズ越しの彼を興奮させもする。いや、むしろ任田が期待しているのは、「期待(予想)を超えた何か」であると言えるだろう。予定調和に留まっていようとするならば、彼はわざわざ動くモチーフ、不定形な被写体を使う必要は無い。液体やそれにまつわる現象はいつだって不安定であり、動いているからこそ、作家の思い通りになるはずもないのだから。だとすると任田は、緻密な思考と計算の基に周到に撮影環境・素材・照明等を用意しながら、一方ではそれらによって現出させたいと思う現象の上を行く新たな光景を見たいがために、緊張しながらカメラを構えていることになる。計算や仮説を立証させたいと願う「化学者」のようでありながら、同時に作為を超えた次元の新しい現象を期待する「科学者」でもある。いずれにしても、その眼はファインダー越しに箱庭の宇宙を捉え、どんな微細な変化も、あるいはその手前の予兆すら見逃すまいと狙っている。何かが「起こる」一瞬の前の出来事ですらあるのだろう、これらの写真が持つ緊張感と不気味な様相は、ただごとでは無いと感じさせる。

 野原の草木を写したシリーズを除けば、専ら彼の「箱庭的」写真の素材となっていたのは「土」だった。しかし、彼のステートメントにもあるように、「3.11」によって自らの選ぶ素材に恐怖すら感じ、土から離れてみようと思うことになる。そこで登場したのが「ミルク」である。土は言うまでも無く大地を象徴し、それらが巻き上げる土煙は自然の猛威を感じさせる。ではミルクはどうなのだろう。イメージだけで言えば母乳から連想される優しさや包容力、生命力を想起するが、任田の写したミルクは彼自身が予想だにしなかった程、野生的で暴力的な姿を現した- 。 まるで母乳というよりも精液のように水中で意思を持つかのように蠢き、粘着性を帯びながら漂う様は明らかに土とは違った様相である。直接的に生命維持に欠かせない液体は、その行き先を狭い水槽の中でも必至に探すかのように、自らを吸収する媒体をエロチックに求めているかのごとく。

 任田の写真に映る現象、映像に見せられる一部始終を「偶然の産物」と片付けてしまうのは、人間の想像力や表現力を過信し過ぎている証拠となろう。箱庭で実現された現象は、いずれ大きな規模で地球上に再現されない保証は無い。人智を超えた現象、化学や科学で追いつかない領域が存在するからこそ、私達はそれを美術として楽しむことも出来るのではないだろうか。そして人々はその中にこそ、何かを予感することも出来るはずだ。

gallery neutron 代表 石橋圭吾

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