2009年4月15日(水)~5月10日(日) 1F main gallery + 2F salon
文 / 小金 沢智 (neutron tokyo) 写真 / 表 恒匡
一階に新作を、二階に旧作を並べるという展示構成から明らかになったのは、塩賀史子の作品の変化である。つまり、旧作の特徴として写実性や光と影の強いコ ントラストを挙げることができようが、新作ではむしろそういった要素は息を潜め、塩賀の焦点は光を描くことに合わせられている。それは、写真を用いて制作 をしている塩賀の、絵画らしさへの回帰とも言い換えることができるかもしれない。
たとえば今回の出品作品中最大の、《楽園》(キャンバス・白麻地・油彩、145.5×227.3cm 、2009年)を見てみよう。描かれているのは滋賀に住む作家の近所に広がるという森の風景である。画面からはまばゆいばかりの光を作家が描こうとしてい ることが明らかであり、塗るでもなければ描くでもなく、点描のように画面上に色を配置していくことによってそれらは生み出されている。結果、画面の奥から 射し込むように描かれる光は画面全体を包むように覆う。《木もれ陽》(キャンバス・白亜地・油彩、112.1×145.5cm 、2009年)や《楽園- いぶき-》(キャンバス・白亜細・油彩、116.7×91.0cm 、2009年)といった作品も同様である。その光の中に描かれる青々と茂る木々や幾分濁った水場、そういったなんでもない風景から、作家は光と影の交錯が 生み出す、「死と生、一瞬と永遠、絶望と歓喜」のようなものを描き出そうと試みる。
小品である《眠り》(キャンバス・白亜地・油彩、31.8×41.0cm 、2009年)は、新作中唯一それらと異質な作品であろうか。植物の緑はバックの暗がりによってより強く引き出され、それは同作だけではなく同じ壁面に並 べられた《眠り- プリムラ-》(キャンバス・白亜地・油彩、22.0×27.3cm、2009年)や《眠り-蓮-》(キャンバス・白亜地・油彩、31.8×41.0cm、 2009年)の鮮やかで心地よい色彩を引き立てる。おそらくこの作品が一階になかったならば、全体の雰囲気は大きく変わっていただろう。