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Exhibition Review
櫻井 智子 展 「わらべの目」 【開催を終えての再考論評】

2009年5月13日(水)~5月31日(日) 3F mini gallery
文 / 小金 沢智 (neutron tokyo) 写真 / 表 恒匡

 

  江戸時代に流行した博物図譜は今で言う図鑑のようなものだが、動植物や魚介類、昆虫類といった生き物だけではなく道具類や妖怪などの姿形を描き出してい るものまであり、私にとって非常に興味深いものである。現代の図鑑と大きく異なるのは、そこで用いられている図が写真ではなく絵画であるという点だ。それ ゆえ妖怪も可能になるのだが、私のように博物学的な関心からというよりは絵画としてそれらを見る人間にとって、担当した絵師の力量が図譜の善し悪しを判断 する決定的な要素になる。

  

丁寧に描かれたものは確かに美しいが、必ずしも対象に正確な描写であれば良いということではなく、むしろ現代の視点から見れば下手な方が面白い場合もあ る。興味のある人は、東京国立博物館が所蔵している博物図譜資料のデータベースをウェブで公開しているのでぜひご覧頂きたい。

http://dbs.tnm.jp/db/kaken/zufu.html

前置きが長くなったが、櫻井智子の作品もまた、さまざまな生物を一枚の画面に描いて いるという点で博物図譜を想起させるものだ。博物図譜は肉筆のものもあれば木版のものもあり、形態も版本から絵巻まで多様だが、櫻井が用いるのは和紙に墨 であり、それぞれのモチーフを一枚ずつ独立させて描いている。

  

岩絵具を使う場合もあるが、今回の出品作品を見てもそれはわずかな挿し色に使われるのみである。つまり作品は等しく墨を主な画材として制作されたものであ りながら、用いられる技法や筆記具の違いによって異なる表情を浮かび上がらせているという点に作品の見所がある。たとえば墨のぼかしを効果的に取り入れる ことで柔らかみのある質感を表現している《雪ヒョウ》(墨・和紙、110.0×90.0cm、2009年)と、硬質な線によって針状の体毛をあらわしてい る《ヤマアラシ》(墨・和紙、36.4×51.5cm 、2009年)は一見しての印象が対照的である。かたや柔らかく、かたや堅い。しかしどちらも墨なのだ。その特性を活かして、櫻井は生き物を描いている。

  

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