池田がその不自由さから自由になるべく試みた手法が反映されているのが、個展タイトルにもなっている《ダルマのカルマ》(ゲルインクボールペン・鉛筆・水 彩紙、540×392mm、2009年)である。ここで池田は色を、サイコロを振ることで決定するという大胆な試みを採用している。つまり作品に偶然の要 素を持ち込むことで、それまでの制作によって蓄積された自らの経験から自由になろうとしたのである。事実その手法は池田であれば行なわないという色の重な りを見せ、作品の自由度を大 きく飛躍させた。だが池田はそれですら足りなかったらしい。続く《石ころ》(ゲルインクボールペン・鉛筆・水彩紙、540×386mm 、2009年)は眼をつぶって輪郭線を引くという、さらにアクロバティックな偶然の要素を取り入れた作品である。そうして制作された作品は、それまでの作 品にはない奔放な線と形態を獲得しており、《 石堀小路 no.2 》や《 巨木 》との違いは比較すれば明らかである。小品に見られるような伸びやかでゆるやかな線も、そのためだ。
左:《 ダルマのカルマ 》(2009年 / 540×392mm / ゲルインクボールペン・鉛筆・水彩紙)
右:《 石ころ 》(2009年 / 540×386mm / ゲルインクボールペン・鉛筆・水彩紙)
けれどもそれも、これまで池田が現実を元に線を引いてきた経験があるからこその賜物であると考えられる。その意味では必ずしも自由ではなく、作家はさら なる変化を求めて試行錯誤を重ねるかもしれない。今回池田は個展のテーマに建築物や風景を設定し人物画の出品を行なわなかったが、今回の個展でも見ること ができた現実と空想の融合よろしく、複数の要素が展示の中で一つになったとき、線も色もより鮮烈なイメージとなって鑑賞者の眼に映るのではないか。整理さ れた小気味好い展示であったのだが、新作の池田の作品のように展示自体が混沌としたものも見てみたいという気持ちに駆られた。今後は作品を展示する空間構 成にも大いに期待したい。
左:《 リンネの法則 》(2009年 / 295×202mm / ゲルインクボールペン・水彩紙)
左:《 幻都 》(2009年 / 258×367mm / ゲルインクボールペン・水彩紙)
右:《 アントワープの広場 》(2009年 / 284×405mm / ゲルインクボールペン・水彩紙)