瓜生 祐子 展
2010年3月17日(水)~4月4日(日) [ 会期終了 ]
ギャラリーニュートロン 桑原 暢子
成安造形大学を卒業してからすでに4年の月日が流れるが、瓜生祐子のこれまでの展示経験は案外少ない。グループ展を4回と個展を2回。場数こそ踏んでいな いが、作品に対する周囲の評価はとても高く、新作を切望する声も少なくない。そんな瓜生にとってもちろん初めての東京での個展。昨年の京都での個展を彷彿 とさせる展示になるのか、はたまたこれまでに見た事のないような風景が広がるのか…
瓜生の作品の魅力は大きく分けて二つある。それは技法とモチーフである。瓜生の技法は丸いキャンバス(時には四角)にアクリル絵具で直接イメージを描 き、その上から綿布を覆いかぶせ、鉛筆を用いて細部を描く。非常にシンプルな方法ではあるが、このような例を他では見た事がなく、まさに瓜生独自のものだ と言ってもよいだろう。この綿布を被せるという過程により、パネルにのせたアクリル絵具が淡い色彩となって透けて現れ、また鉛筆の繊細な線もキラキラと輝 いて見せられる。そうして作られた画面は遠くから眺めるのと、至近距離で見るのとではまったく違った表情になる。近くから、遠くからと鑑賞者と作品との距 離を変えさせることは、瓜生が作り出す世界にはとても重要な要素なのだ。
なぜそこまで距離が重要なのか。それは描かれるモチーフにある。先に書くとネタばらしのようだが、瓜生は一貫して食べ物を描いている。食べ物は生きて行 くために必要なものというだけでなく、フランス料理や日本料理などに見られるように「魅せる」食べ物も存在する。またそれは特別な場合だけではなく、日常 生活においても私たちは彩りを意識して料理をお皿に盛りつける。鼻で香りを堪能し、舌で味わい、会話を楽しむ。このように私たちは、きれいに飾られた料理 をまるで絵画を楽しむようにまずは目で楽しむ。しかし瓜生は美しく盛りつけられた料理やケーキをそのまま描いているのではない。誰かの手によって作り上げ られたお皿の上のご飯やケーキを、食べ崩す事によって生み出される新たな形を地形と見立てて描いているのだ。しかし瓜生の作品は一目見ただけですぐにそれ が食べ物であるとわかるわけではない。一見するとどこかの景色を描いた風景画のようなのだ。遠くから見ると食べ物になり、近くで見るとどこかの景色にな る。このように鑑賞者の立つ位置によって作品の表情は一変する。
作品の見え方は人それぞれだが、私には瓜生が描くその景色の中に人 物を見つけることができない。もしかしたら人気のない少し寂しさを感 じさせる景色に見るものを引き込むために、その世界の住人たちはどこ かに隠れているのかも知れない。私たちが遊ぶその世界はこの世のどこ にも存在しないどこかで、だけどそれはいつかどこかで瓜生が確かに見 たお皿の上の景色の中なのだ。