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neutron tokyo 1F main + 2F salon + 3F mini gallery Exhibition

「東北画は可能か?」 (グループ展)
2012年1月11日 (水) ~ 29日 (日) [会期中 1月16日, 23日 月曜閉廊]

Comment, gallery neutron ISHIBASHI Keigo

「東北画は可能か?」 に寄せて

 年が変わった。どんなに災厄が訪れようとも、また明かりが差し込もうとも、暦は何も揺るがずにただ時を刻む。今年ほど年の変わり目に無病息災、平和を祈る気持ちを感じたことはかつて無いかもしれない。そして既に多くの物事が動きだした頃、一月十一日にneutron tokyoでも新年第一弾の展覧会が始まる。三瀬夏之介率いる東北芸術工科大学に所縁のある作家・学生有志によるグループ展「東北画は可能か?」のプロジェクト巡回展である。奇しくもその初日は、東日本大震災発生日から10ヶ月の節目にあたる日でもある。しかし、年が変わろうとも、何ヶ月の節目を迎えようとも、今私達が抱える危機的状況と、旧来のシステムと思考による閉塞感は何ら変わらない。むしろ日に日にそれらが日本列島の上空を覆い、晴れぬ霧のごとく私達の視界を妨げ続けている。「失われた十年(あるいは二十年)」とはバブル崩壊後の日本経済の停滞と構造改革の非実現を嘆く言い方であるが、私達はその渦中に未曾有の天災と人災の追い打ちをかけられているのである。経済学者や政治学者が新年の冒頭に「2012年は日本が世界で生き残る上で大きな節目の年となる」と語っていたが、そんな事は言われなくても毎年そうであり、今この危機的状況でしか(ですら)改革・前進できぬ者達は私達の時代に必要では無い。

 三瀬夏之介は私と同じ昭和48年生まれの38歳である。いわゆるイチロー世代であり、善かれ悪しかれ世間を騒がせている「ホリエモン」こと堀江貴文氏も同じ。この世代は各方面で頭角を表し、旧来のシステムや物の見方を変えようと戦う世代の中心である。生まれた年は第二次オイルショックのまっただ中で、自分達は第二次ベビーブームのピークでもあり人口が多い。ただでさえ競争意識が強い上に、大学卒業時には見事にバブルが弾け、皆それぞれが社会のあちこちに散り、それまでの「生き方」とされてきた概念と格闘しながら独自の道を切り開いてきた。ちなみに大学卒業間際には阪神淡路大震災とオウム事件をリアルタイムで経験し、以後「失われた時代」を土台として踏ん張って来たのは言うまでもない。だからこそ、三瀬は今の日本を牽引する力となり得る。

 三瀬は奈良県の出身であり、大学は京都市立芸術大学の日本画専攻であったが、当時からしばらくの間は自らが対峙し・乗り越えるべき概念上の「壁」として、「日本画」という美術領域、あるいは「奈良」という地理的領域をことさらに提唱し、それらに「?」(クエスチョンマーク)を投げかけながら、一方では確信に満ちた制作発表を繰り返してきた。今でこそ新しい日本画というものが認められ、現代美術の中の潮流になっているが、当時(10年前)は非常に限定的なムーブメントであり、評価も定まってはいなかった。京都で彼が山本太郎や船井美佐らと「日本画ジャック」(前身として「日本画は死んだか?」)を立ち上げてニュースタイルを提唱して以後、京都から東京に向けて旧態打破の強いメッセージが送られ続ける。象徴的な出来事として、若手平面作家の登竜門として認知される「VOCA賞」(上野の森美術館)において、2007年に山本太郎、2008年に横内賢太郎(京都市芸大~大学院・油画領域出身)、2009年に三瀬夏之介、2010年に三宅砂織(京都市芸大学院・版画専攻出身)、そして2011年に中山玲佳(京都市芸大学院・油画修了)と五年連続して京都系の作家が大賞(VOCA賞)を受賞したことも、三瀬達の活躍抜きには実現しなかったであろう。「奈良」や「日本画」へのぶつかり問答の先には、留学したイタリア・フィレンツェで「日本」そのものを客観視し、自らの制作の基本であった紙や絵具といった画材までをも見つめ直すことにより、2008年の帰国後には墨を基調としたモノクロームな作風へと深化する。

 そして2009年より、彼は奈良を離れて自らの新天地として赴任した山形において、日本のもう一方の源流と言える東北の山々の荘厳なエネルギーに囲まれ、厳しさの中に深い精神性を見出すに至る。そして、かつて奈良で高校生達を率いて、あるいは京都で新しい日本画を目指す作家を率いた様に、彼は三たび仲間を獲得し、この「東北画は可能か?」のプロジェクトを発ち上げた。そこから先のことは、私が語るに及ばないであろう。彼らが今まさに増殖発展しながら何を実現しようとしているのか、見届けるしかない。

 だが一つだけ言えるのは、三瀬夏之介こそ真のリーダーであり、改革者であり、日本の美術を私達と共に、私達の時代の中に、そしてその先に、在るべき姿で提唱してくれる作家であると言う事だ。「東北画は可能か?」という問いは、最初から問いではない。「やるんだよ」は構造改革への鶴の一声である。

gallery neutron 代表 石橋圭吾

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