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Gallery Schedule
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neutron tokyo 3F mini gallery Exhibition

松井 沙都子 展 「a mimic」
2010年7月21日(水)~8月12日(木) [ 会期終了 ]

Comment, gallery neutron ISHIBASHI Keigo

ギャラリーニュートロン代表 石橋 圭吾

  有機野菜が温室で機械的に育てられた均質な野菜と違うのは、味だけでなくその形である。いびつで大小のバラツキもあるそれらは、しかし本来の生命のあるべ き姿を留めているに過ぎず、私達の違和感こそがグロテスクな現象であるのだが、どうも工業製品に慣らされた現代人は視覚的にはスマートなものを受け容れて しまう傾向を持ち、脱却しきれない。いや、別に脱却する必要はないのかもしれないが、有機的なもの(人の手が多分にかかったもの)は価格も高く希少である 限りは、私達の選択肢は必然的に温室栽培のものに向いても文句の言われ様が無い。

  何もこれは野菜に限らず、魚の天然ものと養殖ものの違いや、アート及び手工芸に対するプロダクトの別にも通じる話である。そして20 世紀に完全に工業化された現代生活においては、もはや人間の遺伝子レベルでも感覚器官や感受性がそれらスマートな生産ラインを受容してしまっているのだろ うか、食べ物に限らず身の回りのものはほぼ全て無機的な「物」で溢れかえっていると言うのに人間は消費の自由を得たと認識しても、不自由な有機生活に「戻 ろう」と思うのは少数に留まる。人間ほど自然環境を否定し続ける生き物は他にいないであろうが、自然の摂理を覆そうとし、思惑的な価値を共有することを良 しとし、人間の本来持っていた動物としての機能・器官を積極的に退化させて来た。土の地面はコンクリートで覆われ、川や海は埋め立てられ、自らは天に迫ろ うと無為な建設を繰り返すことにより、人間の営みそのものが自然との共生(この言い方すら傲慢だが)においては矛盾の塊となり、都合良くエコだの温暖化防 止だのと叫ぶが、発端の文明を捨てる意志などさらさら無い。

  この完全に工業(=機械)に支配された世界において、人間が人間自身の肉体及び精神と向き合うとき、おそらく実に空虚でそこはかとない恐怖にかられるこ とは、決して一部の人に限った事では無いだろう。松井沙都子もその一人である。彼女は「女性」であることの立ち位置から衣服を通し肉体の表層と血肉(表と 裏)の関係を疑うことを始め、さらにそれは人という動物に限らず、「存在」という概念の表裏、天地、前後左右、あるいは終始の関係に思いを巡らせている。 若い女性である作家は当然のように既製の衣服を身に纏い、化粧をし、工業製品に囲まれ、養殖(クローン)栽培のものを食べ、私達と同じく自然の摂理に従っ て生きているのではあるが、それはどこまでが自分の主体であってどこからが異質な物質(他者)の領域なのかを気にしないではいられない。

  今時の女性達はウン十年前の日本に比べれば圧倒的に容姿が整い、お洒落を楽しみ、化粧も上達し、「女優対一般市民」の圧倒的な差異も無くなったと言える (と私は思っている)が、その現象を言い変えれば女性達が皆均質化したということになる。誰のせいか? - 自らが進んで工業化・均質化を選択して来たせいであり、いびつで不揃いなものを否定して来たせいである。結果として町には流行というハンドルシフトを繰り 返すだけの容姿の整った二足歩行の機械化人が溢れ、思考までもi phoneやi padという特定企業の有益にのみ貢献するツールに侵され、まさに完全機械化寸前である。この危機的状況に松井沙都子は視覚表現の技(トリック)を駆使し て切り込む。

  松井の画面に一見して漂う安定と不安定は、人間に限らず物事の表裏を覆し(あるいはその間の領域を提示し)全ての存在と呼べる事象を確固として存在させ ないことから生まれる独特の浮遊感に繋がっている。離れてみればお洒落な水玉模様の絵画に見えなくもないが、ひとたび目を凝らせばバラバラな衣服や人体の パーツのようなモチーフが散財し、空恐ろしいイメージにも変貌し得る。そのどちらもが彼女の策略の上に成り立っており、全てはアートの発端である手技によ る「工業製品(プロダクト)化された思考へのアンチテーゼ」あるいは「均質化への反逆」のメッセージを内包する。形状も、大きさも、質量も伴わない「これ ら」はバラバラに漂いながら、本来の姿を想像させるにとどまる。だがおそらく、今の私達に想像できる元の姿など、どうせ陳腐な工業化の産物にしか過ぎない だろう…という悲しい皮肉すら、松井の画面には切迫して充満しているのである。

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