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neutron tokyo 3F mini gallery Exhibition

入谷 葉子 展 「縁側ララバイ」
2010年10月6日(水)~10月24日(日) [ 会期終了 ]

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サントリーミュージアム 大島 賛都

  入谷葉子さんが最近手がけている作品のメインモチーフは、かつて自分が住んでいた家である。数年前に引越しをした後、その家は取り壊されて今はもう存在し ない。入谷さんは、その家の姿を、手元に残された写真や記憶を頼りに、色鉛筆を使って面を塗りつぶすようにしながら、画面に甦らせる。窓や床、柱、そして 庭の植栽に至るまで、色鉛筆の細い芯を画面に丹念に擦り合わせて、鮮やかな色面として浮かびあがらせる。それはさまざまな思い出とともに家の各所を愛(い と)おしく手で撫でていくような行為でもあるのだろう。また、まだぬくもりの感触が残る記憶を、一旦、自分のからだの中に浸透させて追体験する行為なのか もしれない。でも作品は決して重たい記憶を背負った暗い画面とはならない。それらは、明るく清らかで、幸福感に満ちている。

  今回は家を「再現」した大きな作品とあわせて、家の記憶とつながるさまざまモチーフをコラージュのように組み合わせた、繊細で美しく、そして小気味良い 感覚の小品が数多く展示されている。これらの作品をよく見ようと距離を縮めていくと、遠目では切り絵のように見えていたフラットな面が、突然、特異な存在 性を帯びたフォルムとなって鮮烈に浮かびあがってくる。それは目に見えない「結界」を越えて、作品が意味を帯びるゾーン内部へと足を踏み入れるといった、 通常このタイプの作品を見る際にあまり想定しない感覚だ。

  そうした表面のグラフィカルな様相を一瞬にして振り切る彼女の作品の「絵画性」は、その祈りにも似た制作プロセスと深く関わっているようだ。無心に色鉛 筆の細い線を塗り重ねる行為に結果をゆだね、自らの意識を一旦引き離し、そして再び手繰り寄せる行為の狭間に、言葉にならない多くの言葉が埋め込まれてい る。

  では、彼女の個人的な記憶が私たちに意味をもたらすのはなぜだろう。それは、そうした彼女の内部の思いの切実さが、大切な記憶に新たな色と形を与え「作 品」として解き放ちたいという作家としての純真な思いへと繋がっているからではないか。うららかな春の陽気を思わせるその作品を通して、私たちは、彼女が 感じる幸せの一端を、普遍的な記憶として分かち合うのだ。

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