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Gallery Schedule
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neutron tokyo 1F main + 2F salon + 3F mini gallery Exhibition

「捨象美術」 金 理有 (陶)
2011年12月14日(水)~30日(日) [会期中 12月19日, 26日 月曜閉廊]

Comment, gallery neutron ISHIBASHI Keigo

ギャラリーニュートロン代表 石橋 圭吾

 人は誰でも、超えなければならない壁がある。避けようとしても前にそびえ、退こうとしても背後に迫るその壁は、私が/あなたが誰であり何処に属しているかという定義からして確固たる決断を迫り、越境を許そうとしないものである。人種、宗教、政治的イデオロギー、文化、生活スタイル、居住地域や性別に至るまで、人間はそれぞれに固有のジャンルを選択させ、カテゴライズすることによって互いを確認しあう。世の中の概念を覆し新しい観点から視野を獲得すべき美術の分野もまた、例外に漏れずジャンル分けと棲み分けと、つまらないカテゴライズに満ち満ちている。

 一方、インターネットで結ばれたもう一つの現実世界においては、匿名性と不可分性が許容される前提で壁は取り払われ、パスポートや検閲抜きに自由な交歓が繰り広げられる。そこに当然の様に潜む悪意のある攻撃性や無責任の連帯性を除けば、仮想現実は立派にこれからの世界を導くだけの素質は持ち得るだろう。しかしながら、SNS(ソーシャルネットワークサービス)で構築された新しい日常の現場において、私達が頼りにするのは相手がどこに住んで何をして、何を考えている人であるかという情報であり、まさにカテゴライズされ・パターニング(類型化)された私達の回路から導き出された答えによってしか、未知の相手と挨拶を交わすことすらしないであろう。だとすると仮想世界においては、実は現実世界よりも遥かに大きなウェイトが情報に置かれ、細分化されたパターンスポットに当てはまることが出来なければ、私達自身が存在することもままならないと言えよう。

 そんな私達の世界において、仕切られた壁を軽々と超える事は努力よりも先に大きな勇気を必要とする。誰もが自由でありたいと願いながら実現が困難であるのは、即ち自由こそ本当の意味での恐ろしさを秘めているからであり、人間は潜在的に不自由の対価として安息を得ることに慣れてしまっている。だから周囲に高くそびえたつ黒い壁を認識しても、それを見ないフリをして私達自身が便宜上の「自由」を約束されている、私達自身は生まれながらに自由だなどと言う事が出来るのであろう。本当に自由を求めて彷徨う者、すなわち「越境する者」こそがその壁を越え、反対側の景色を眺め、いつ奈落の底に落ちるかも分からぬ足場の上で重力と精神的な浮力の間でダンスを踊ることが出来る。まさに唯一無二の、金理有のように。

 彼にとっての2011年は今までの人生を全て賭してでも手に入れたいと思ったものが、一粒の宝石のかけらのように目の前に輝きを見せつけた一瞬のような一年であった。そして今なお、彼はその煌めきの中に包まれている。大抜擢された横浜トリエンナーレでは多くの美術ファンの認知と支持を獲得し、もはや陶芸界に留まらず美術本流の中で認められる現代作家の一人となった。その彼の出展作品は最近作から旧作に至るまで幅広い制作のバリエーションを見せたのだが、どれも「縄文時代と未来を繋ぐ」彼特有のシャーマニック(呪術的)かつシンボリック(象徴的)な造形の魅力を見事に体現し、その先へ続くものを期待させるに充分な展示となった。他方、同時期に横浜の現代茶室「SHUHALLY」で開催された個展&茶会では、現代の数奇人である主宰の松村氏の遊び心に呼応するように、彼のオブジェや器が来場者に新しい茶道の魅力を伝えていた。LED内蔵の朧に光る畳の茶室においては映像までをも駆使して、従来の固定観念化された様式美に大きな風穴を開けた感が漂う。まるで動かし難い巨人の足元に小便を引っ掛け、鼻の下に落書きをしてやったような爽快な気分である。

 折しも先日、金理有の盟友であり最高のライバルである現代陶芸の雄・青木良太が開いたクラブパーティーを、青木自身が「現代の茶会」と称した様に、今や陶芸やお茶は最高のストリートカルチャーに変貌しつつある。HIP HOP に必要なのはリズムとライム(詩)だけであるように、現代の茶会には自慢の器と新しい美的価値観を愛でる心さえあれば良い。金理有にとっても日本にとっても大激震の年となった今年を締めくくるのは、誰も予想出来ない波乱と興奮と調和に満ちた最先端の茶会であり、個展である。

 「越境する者」に安息の日は訪れない。絶えずどちらかの壁へ突き落とさんとする輩が現れ、足を引っ張る者も絶えない。しかし彼の行く先には、彼しか目にすることの出来ないフロンティアが待っている。私もまた、彼のオブジェが見開く大きな一つ目を心に宿し、目の前の壁を越えんとするばかりである。

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